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21話 恋慕

last update publish date: 2026-06-24 07:04:37

頭の中が真っ白になる。

生きている……。一ノ瀬美緒のお腹の中に居た子供が……。

「所在は分かるのか?」

そう聞くと日下部が頷く。

「既に人をやっています」

そう言われて俺は少し考え、そして言う。

「美緒には知らせるな、全て秘密裏に進めろ。奪還するんだ、大事な子を」

そう言うと日下部が頭を下げて言う。

「御意」

部屋に一人になり、考える。

まだ日が明けてそれ程、経っていない ――

普段なら仕事に出向き、退屈な連中を相手に退屈な時間を過ごしている時間帯だ。

俺は朝からの激動の動きに少し微笑む。

一ノ瀬美緒が俺の人生に現れてから、俺の人生は一変した。

あの夜、悪意のある人間の策略だったとしても。

一ノ瀬美緒と出会い、関係を持ったあの感覚は、俺のそれまでの人生がいかに退屈だったかを思い知らされる出来事だった。

あの夜以降、また退屈な時間を過ごしていた俺にもたらされた一ノ瀬美緒の訃報。

失ってしまうかもしれないという可能性について、気付く間もなく失い、俺は喪失感に囚われていたのに。

彼女が自ら、俺の元へ飛び込んで来たのだ。

そして知らされた事実 ――

一ノ瀬美緒は俺の子を妊娠していた可能性があ
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  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   22話 時系列

    鎮痛剤を飲み、ベッドに横になる。堕胎手術を受けたのが一昨日だというのに、もう遥か彼方、昔の事のように感じてしまう。「美緒様」呼ばれてベッドのすぐ傍まで来ていた上原さんを見る。「お医者様から追加のお薬を頂いております。貧血のお薬だそうです」そう言われて私は体を起こし、上原さんが持って来てくれた貧血の薬を飲む。自分の左手薬指にはめられている指輪が光る。(冷たい指輪、氷の契約書……私にピッタリね)そう思い、また体を横たえる。鈍い痛みに顔をしかめる。「何かありましたら、何なりと仰ってください」上原さんはそう言って私に掛かっている寝具を直す。私の身体はボロボロだ。無理をし過ぎたかもしれない。本当ならあの療養所で私は自分の無力さを嘆きながら体を横たえ、そして爆発と共に死んでいた筈だった……。そうだ、爆発。あれは結局、華瑛が仕掛けた事なんだろうか。(そうよね、そうに決まっているわ)けれど……じゃあ何故、堕胎手術を?療養所の爆発に乗じて私を殺すなら、堕胎手術なんてしなくても良かったんじゃない?よみがえる、あの言葉。アレはきちんと残しておけアレと呼ばれたのは私のお腹の中に居た子供の事だろう。まだ小さい命……下腹部に手を当てる……ほんの少しの膨らみがあった筈の場所を撫でる。……待って。おかしい。どう考えても時系列が合わない。私のお腹の中の子供は……私の思っている月齢よりも……。痛む下腹部を気にしながら私は寝返りを打つ。上原さんが静かに待機している。「上原さん」呼ぶと上原さんがサッとベッドの脇まで来る。「何でしょう」そう聞かれて私は言う。「何か書くもの……」そう言いながらふと思い付く。「スマホが欲しいんですけど」そう言うと上原さんが少し微笑み、言う。「征哉様に確認を取って参ります」そう言って一礼し、部屋を出て行く。(そうよね……スマホなんて外部へ連絡が取れるものだものね……)九条征哉は欲しいものは何でも言えと言ったけれど、私に自由は与えてはくれないだろう。それに関しては私自身も覚悟はしている。氷の契約のの通り、私は“生きていた”頃の人間とは接触を持ってはならないし、私自身、そんな人たちと接触しようとは思わない。(何か書くもの、の方が良かったわね……)そう思いながら私は豪奢な天蓋を見つめる。部屋の扉がノックされる。「

  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   21話 恋慕

    頭の中が真っ白になる。生きている……。一ノ瀬美緒のお腹の中に居た子供が……。「所在は分かるのか?」そう聞くと日下部が頷く。「既に人をやっています」そう言われて俺は少し考え、そして言う。「美緒には知らせるな、全て秘密裏に進めろ。奪還するんだ、大事な子を」そう言うと日下部が頭を下げて言う。「御意」部屋に一人になり、考える。まだ日が明けてそれ程、経っていない ――普段なら仕事に出向き、退屈な連中を相手に退屈な時間を過ごしている時間帯だ。俺は朝からの激動の動きに少し微笑む。一ノ瀬美緒が俺の人生に現れてから、俺の人生は一変した。あの夜、悪意のある人間の策略だったとしても。一ノ瀬美緒と出会い、関係を持ったあの感覚は、俺のそれまでの人生がいかに退屈だったかを思い知らされる出来事だった。あの夜以降、また退屈な時間を過ごしていた俺にもたらされた一ノ瀬美緒の訃報。失ってしまうかもしれないという可能性について、気付く間もなく失い、俺は喪失感に囚われていたのに。彼女が自ら、俺の元へ飛び込んで来たのだ。そして知らされた事実 ――一ノ瀬美緒は俺の子を妊娠していた可能性があった事、そして既に彼女自身は堕胎手術を受けている事、そのせいでその命は失われたと彼女自身は思っているだろう。その子供が生きているとなれば、それは奪還しない訳にはいかない。美緒の身体はそういう事情を抱えていた訳か……だからあんなに疲弊していたんだと分かると、更に怒りが募る。全てのピースが俺の元に集まって来た。あの夜、一ノ瀬瑛理香と高橋翔太が共謀し、俺と一ノ瀬美緒に関係を持たせた。その根底にあるのは一ノ瀬家の乗っ取りと、一ノ瀬美緒の排除だろう。そして何故、堕胎した後に取り出された命が生かされているのか。一体、何を企てて、何をしようとしていたのか。一ノ瀬美緒はどうやって生き延びたというんだ?その辺りも探りを入れた方が良いだろう。きっと一ノ瀬美緒に手を貸した者が居る筈だ。一ノ瀬華瑛、一ノ瀬瑛理香、一ノ瀬恭介、高橋翔太……全員揃って地獄に送ってやる。◇◇◇一ノ瀬美緒が死んだ。これで私はやっと目的の半分を達成したという訳だ。葬儀から戻って、さすがにその日のうちに一ノ瀬美緒の部屋を片付け始めたら、夫にも、世間にも申し訳が立たない。だから私は片付けたい気持ちをグッと我慢する。

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  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   16話 嫉妬、悪意、昏倒

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  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   12話 熱

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